ショートショート:将棋部バンブーブレード(BAMBOO BLADE)


勢いで掲載( ´Д`)
普通、この手のやつは一晩は寝かすべきだが、
明日になったら削除してそうなんで、勢いで掲載
しかし、ショートショートといえ久しぶりに書いたなあ。
痛すぎる気もしますが、まあいっか(´・ω・)

ショートショート:将棋部バンブーブレード(BAMBOO BLADE)



「うちの将棋部入らない?」
 室江高校・女子将棋部部長の千葉紀梨乃は、にまーとした笑みを浮かべて新入生に手招きをした。
 細めた目で招き猫のような動きだ。
 女子将棋部と墨で書かれた看板を掲げた部室から、顔を半分だけ廊下に出している。
 室江高校女子将棋部は、三年生が受験で退部したため、部長は二年の千葉紀梨乃が受け持っている。
 他には幽霊部員が一人いるだけで、はっきりいって存亡の危機にあった。
 一年生の部員を入れなければ、同好会に格下げになりかねない。

 千葉紀梨乃――通称部長のキリノに呼び止められたカップルが立ち止まった。
「……ダン君、将棋だって」
 ウェーブ髪の華やかな雰囲気の女生徒が傍らの男子に声をかけた。
 一緒にいるのは、背の低いいがぐり頭の男子生徒。
 男子は首を振りながら、
「ミヤミヤ、俺たちは卓球部に入るぞ」
 背の高さ容姿いずれを比較しても、かなり釣り合わないカップルだった。
 キリノは頷きながら解説を始めた。
「カップルは概して足して100点だったりするんだよね。世の中釣り合いってものがあって、この場合、女の子が110点で男の子は-10点」
「なんでマイナスやねん」
 ミヤミヤはキリノの頭に空手チョップを食らわした。
 愛おしそうにダン君の頭をなで回しながらミヤミヤは断言した。
「ダン君が110点。私が-10点!」
 ダン君は即座に否定した。
「ミヤミヤ。お前はマイナスなんかじゃないぞ!」
「ダン君!」
 ミヤミヤは思わずダン君の自分より小さな身体を抱きしめる。
 キリノは部室のドアから顔を三分の一だけだけ出してつぶやいた「どっちでもいいから」
 額に+の形をした怒りじわを浮かべて、ミヤミヤの18文キックがキリノの顔面に炸裂した
「お前が言い出したんだろ」
「先輩に向かって、お前はないだろう。お前は」
 キリノは蹴られて赤くなった鼻の頭をなでる。痛みで目からは涙がこぼれていた。
 ダン君が仲裁に入った。
「話が全然進まないから、二人ともいい加減にしろ」

     *

 女子将棋部の部室でミヤミヤとダン君はお茶を飲んでいた。
 昆布茶に醤油せんべいの組合せである。
 神妙な面持ちで部長のキリノは「まさかほんとに入部してくれるとは思わなかったよ」とつぶやいた。
 部室の壁際には大きなスチールの本棚が置かれている。将棋関係の本が大量に並んでいた。かなり古そうな本も含まれている。

 長い豊かな髪を指でかき上げてミヤミヤは、
「なぜか解らないけど、入部することになってるらしい」
「ミヤミヤ、俺ら、操られているぞ」
 怪訝そうな二人にお構いなしに、キリノは書類を取り出した。入部届だ。
「あなたたち経験者だっけ?」
「経験者?」ミヤミヤとダン君は声をそろえて応える。
「中学校で将棋部に入っていたなら経験者。違うなら、うちの伝統の基礎練習をしてもらうよ」
 経験者では無いという意味でミヤミヤとダン君は、手を左右に振ってみせる。
「それじゃ、これから三ヶ月間、毎日、振り駒の練習をしてもらうから」
「振り駒?」
 振り駒とは、将棋の先攻と後攻を決めるために、歩兵と書かれた駒を三枚投げて、表の数と裏の数を数える行為である。
 歩兵の裏には「と」と書いてある。表である「歩兵」の数が多い方が先行となる。
 キリノは、ミヤミヤとダン君にそれぞれ歩兵の駒を三枚づつ渡した。
「野球部は初めは球拾い。剣道部だったら初めは素振りだけよね。料理部だったらフライパンの素振り。洋裁部だったら針の糸通し。将棋部は、初めは振り駒の練習で基礎を培うの」
 ダン君の目が点になった。
「そんな話聞いたことがないぞ」
「我が校の女子将棋部の伝統なんです」
 キリノはきっぱりと告げた。眉がきりっと上向いている。いつもは眠そうな目がぱちりと見開かれていた。
「……ダン君男だけど」
 ミヤミヤが思い出したようなつっこみを入れた。
「気にしないから」
 キリノは平然と応える。
「気にしないんだ」
「うん。気にしない」
 ミヤミヤとダン君は、三ヶ月間、毎日、女子将棋部で振り駒の練習をすることになった。

     *

 時は流れて一年。
 室江高校女子将棋部は、城東女子高校将棋部と静岡県大会決勝戦で当たることになった。
 相手は、高校女子将棋部で静岡県代表に選ばれたこともある伝統校である。
 茶道部の和室を借りて、試合は、五人による大将戦となっていた。
 大将はむろん、タマちゃんである。
 先鋒のサヤは緊張した面持ちで将棋盤を眺めていた。
 彼女は先手を受け持つとめっぽう強い。しかし、後手ではめっぽう弱い。
 走り出したら止まらない性格で、先手を受け持つとぐいぐい攻め続けるが、後手に回るとボロボロになって必ず負ける。
「ミヤミヤ出番よ!」
 部長のキリノは、ミヤミヤを指名した。
 ミヤミヤは、歩兵の駒を三枚手に持つと、審判に向かって合図した。
「振り駒に入ります」
 両手で駒を握って左右に振る。ぽいっと宙に放り投げた。
 結果は歩兵三枚。
 サヤの先攻である。
 三ヶ月の振り駒の練習の成果で、ミヤミヤは駒の表・裏を自在に出せる技を身につけていた。
 彼女が振り駒を行えば、先攻でも後攻でも好きな方を受け持つことができるのである。
 カジノでディーラーにでもなれば便利そううな特殊技能である。

 サヤ一勝ゲット。
「ミヤミヤ。よくやったぞ」
「ダン君ありがとう!」


 次方、ミヤミヤ。
 反則負け一敗。
 彼女は振り駒しか練習してこなかったので、まだ駒の動かし方をマスターしていなかった。


 中堅、副将、省略する。
 「しょ、省略っすか!」
 副将の部長のキリノはおもわず涙目になった。

 大将はタマちゃんである。
 彼女の名は、川添珠姫。実家が将棋道場を運営しているので、道場を手伝っている。
 彼女の将棋の能力――棋力の潜在能力はプロ棋士並と言われている。
 身体は小さいがたいしたものである。
 しかし、相手も強豪校。それなりに強い。

 駒台には香車が一枚ある。タマちゃんは父親の言葉を思い出してた。
『相手が年上で、男で、経験者なら雀刺しを行っても良い』
 タマちゃんの雀刺しはあまりに危険なので、父親は封印の意味を込めて、彼女に告げていたのである。
 雀刺しの創案者は升田幸三実力制第4代名人といわれている。
 飛車・香車などの飛び道具を集中させて一点突破をはかる作戦である。

 ……男ではないけど、経験者だし、年上だし。
 タマちゃんは、駒台から香車を取り上げると、打ち込んだ。
 すさまじい突きが炸裂した。

「一本!それまで!」
 審判の旗で、タマちゃんの一本勝ちが宣言された。
 応援団の黄色い歓声が沸き上がる。

「一本って意味わかんないんだけど」
 タバコをふかしながら、ミヤミヤがやる気無さそうにつっこみをいれた。
 ダン君がトイレに行ってる間の一服である。

 室江高校・女子将棋部静岡県地方大会優勝! 全国大会に進出である。

    (了)