プロジェクト・ゼロ(石川英輔)早川文庫JA276

 id:pgaryさんに勧められて読みました。
 この本自体は昭和63年発行で、現在は絶版です。
 もともとは早川から単行本で昭和59年に出てます。


 いやー昭和59年ですよ? PC-8801mkIIが出たか出てないかのころですよ。mkIISRは確実にまだ出てません。
 そんな時期に「すでにこれほどの見識をもった小説が、しかも日本国内にあったとは!!!」
 私は驚きました。びびりました。
 角川スニーカー文庫で、谷甲州さんの「ヴァレリアファイル」を読んだときも「その時代では考えられないほどの科学的見識にびびりました」が、もはや予言レベルに近いものでした。


 簡単に紹介すると、
 アマネットというロボットを開発して売り出していた会社が、ハリウッドのショウビジネスの会社と手を組んで、ロボット俳優・女優として米国で成功する。
 その提携会社の社長がNYで裏稼業で「コールガールの元締め」をしているのですが、女性の質が落ちて、人気が下がり気味。
 しかもなんとなく売春産業に手を貸してるのが気に入らないので、ロボット売春婦を作ってしまえばと、
 アマネットを改良して、ロボットのコールガールを作れないかと話をもちかける。
 ってのが発端です。
 ロボットの開発者は、世間や恋人を気にしながら、ロボットを開発していくのですが、
 ちゃんとプロジェクトチームを組んで、企業開発的に開発に入ります。このへんが日本の小説やアニメはいい加減なんですが(すぐマッドサイエンティストでごまかす)
 海外SFのようなリアリティで話しが進みます。


 女性を作るときに苦心するのは、

  • 体温(中味は暖かく、皮膚はつるんとして)
  • 体臭(女性らしい甘い体臭)
  • 下腹部の柔らかさ
  • 舌、口内(舌の複雑さ!)

 などなど。
 唾液をいかに循環させてよだれを落とさないように運営し、下腹部の柔らかさを出すために内蔵に見せかけるものを入れるとか、
 「非常に工学的に、話は進みます(汗」
 ここまで徹底的に「肉体にこだわったロボットもの」は他にはないのではないでしょうか?
 バーチャルガールでもごっそり抜け落ちてるし、攻殻機動隊どころのレベルじゃありません。
 

 そして、肝心の「心」へ開発は進んでいく。
 ここでは、超フレーム理論という理論で、知識を体系づけで、言語対動作レスポンスという理論を構築して、
 人工知能を作りこんでいきます。
 もちろん、現在の科学技術から見れば、フレーム理論というレベルはすでに古いです。
 言語対動作レスポンスというのも、エキスパートシステムの改良にすぎないので、現在となっては、もう「見捨てられたやり方」になると思います。
 しかし、この作品は昭和59年発表ですからね(汗
 世間が、インベーダーゲーム程度を遊んでいた頃に、出ている小説なんです!

 体は作りこめばどんどん精巧になっていきます。心も「決まり文句を繰り返す」という限界論を見極めた上で、


 この小説の核とも言えるアイデアが出てきます。
 それはBマニュアルと呼ばれます。
 ヨーロッパの裏に伝承されてきた、「女性がいかに男性を喜ばせるか」というマニュアル。
 そのマニュアルをコールガールの元締めは持っていて、そのマニュアルを利用してコールガールを教育していたわけですが、
 そのマニュアルを人工知能のベースにしてしまおうというものです。
 マニュアルというのはフランチャイズ展開と同じで米国では一般的で、それは多国籍の人種のるつぼをまとめて生きている国の象徴でもあると思うのですが、
 そこに目をつけたアイデアが凄い!
 そして、コールガールではロボットがコンピュータを内蔵して動かないといけないので、
 あえて、遊郭方式にする。これなら、サーバーコンピュータを一台用意してワイヤレスで複数のロボットを操作する方式がとれる。
 ロボットの破壊や盗難も防ぎやすい。
 そこに会員制の優越感と、「病気の無い安全感」をからめて米国でヒットする。
 それが日本に逆輸入されて話題になる。逆輸入で話題になるって現代はよく言われますが、当時からしてこのアイデアを使ってるとこも凄い。
 ロボットとの性交はマスターベーションなのか? とか、
 もはや本物の女性より、男性を満足させられるロボット女性の存在が社会に生み出す問題は? など社会性もてんこもりで描きつつ、


 最後は「炊き転び」ですよ(笑
 これははなにかというと、明治のころの言葉で、
 メイドで妾の女性です。ご飯も炊くけど、夜の相手もするという意味。
 売春婦ロボットでは大成功した。もともと家事をするロボットを売っていた。
 ならばあわせてしまえばいいわけです。
 かなり大きな物語が全開で、今読むとやはり古さを感じるところはあるのですが、
 発表された時期を考えたら、絶版で埋もれてるのが信じられないぐらいの快作だと思います。
 イノセンス見てる場合じゃないぞお前らって感じで(^^;)
 だいたいゴーストかとかもっともらしい名前をつけて呼んでる時点で、士郎正宗は思考停止なんだよ←酔っ払いみたいなインネンをつけてみる



 ロボットを「足抜けしたい」と申し出る老人が出てきて、「コンピュータ一式いりますねえ」と考え込んでたら、
 スーパーネットワーク経由で、動かせばいいからコンピュータは自社にあればいい。
 しかも老朽化した機体を廃棄する手間もかからないから、要請があれば売ったほうがいい。
 しかも、売れる機体には「人気」があるので、それを分析すれば「人気の秘密」がわかるはずだ。
 みたいな、素晴らしく工学的な展開で進む。
 昭和59年ですよ(^^;)


 解説は「矢野徹さんです」
 矢野さんの訳でだいぶ早川SF文庫は読ませてもらってますね。
 Wizardry日記なんかでも有名でしたが、
 角川書店コンプティークネットで、狂乱酒場という部屋をもってらっしゃいました(私は羅門さんの小説処にアクセスしてたので)
 Bマニュアルとかいくつかアイデアは矢野さんとの会話で生まれているようです。


じゃ
蹴飛ばすから
そこに正座しろヨ
ムラムラきたら
いつでも
相手するさかい
遠慮すなよ


 絶版ですが、ふるほん文庫やさんには在庫があるようですので、
 絶版価格880円でもいいかたは問合せてみては?
http://www.e-shop.co.jp/bunkoyasan/
 送料は200円で、後払いです。
 北九州の人は直接行ってみてもいいかも。


復刊どっとこむで投票受付中
http://www.fukkan.com/group/?no=403


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http://www.big.or.jp/~ayu3/bookre/pro0.htm